星空のダイナミズム

 『星空のライヴIII』のテーマは“ダイナミズム”だ。
 MISIAは日本のライヴシーンのトップをずっと走り続けている。最初の武道館はもちろん、女性ソロ・アーティストとしては至難と思われたアリーナからドームへのクラス・アップを、あっさりとやってのけたのには驚かされた。そうした彼女の輝かしいライヴ・ヒストリーのアナザー・ステップとして位置付けられるのが、『星空のライヴ』なのである。
 『星空のライヴ』は、MISIAの一夜限りのプレミアム・イベントとしてスタートした。会員限定で行われた第一回目は野外の大自然を舞台にしたプライベート・ライヴにふさわしく、ナチュラルなサウンドがテーマに置かれたのだった。その頃のMISIAのライヴの進境は目覚ましく、ヴォーカル・パフォーマンスはもちろん、コンピュータを駆使したサウンド、それと連動したライティングやダンサーなどの演出がアッというまにトップレベルに上り詰めていた。それだけにコンピュータを一切使わない『星空のライヴ』はファンには新鮮に映ったに違いない。大評判となり、その後『星空のライヴII』はツアーとして組まれることになる。
 『II』は予想を遥かに越える収穫となった。息の合ったいつものバンドと、目と目を見交わしながらのライヴ。必要最小限の演出が、MISIAのシンガーとしての実力を最大限に発揮させたことが興味深い。主にバラードやミディアム・テンポの曲を中心としたセットリストは、MISIAの歌そのものの感動をダイレクトに伝えてくれた。MISIAが歌い、それに感動したバック・ミュージシャンが自分の心の揺らぎを音で表わす。それを聴いたMISIAが、さらにメロディとリリックに豊かな表情を与えて、彼らに返す。そうしたステージの上の「感動のコミュニケーション」を、オーディエンスはじっくり味わった。どの会場もゆっくりとヒートアップしていき、最終的にMISIAの歌がそれまでになかった熱を帯びることになった。『II』は日本のライヴ史上に残る傑作ツアーだったと断言できる。
 そして今回はシリーズ3回目。去る8月12日、ツアー2本目となる長崎・稲佐山でのライヴを観た。
 『II』とは明らかにテーマが違う。『II』が“静”だとしたら、『III』は“動”。あらゆる意味でダイナミックに作られている。いきなりアッパー・チューンで始まり、ダンサーも登場する。MISIA自身も座って歌うのではなく、アクティヴに動く。ただしバックはあくまで生演奏のみ。これが何を意味するかといえば、まず第一に“リズム”がコミュニケーションの中心に置かれているということ。『II』の時は、剥き出しのメロディとリリックが中心にあった。だが『III』ではリズムが主役になっている。元来、MISIAはコンピュータ並みの驚異的な精度のリズム感を持っている。そこから出発して彼女はより次元の高い「人間の揺れるリズム」をもって、オーディエンスと今までとは異なる感動を分かち合いたいと考えているようだ。長崎では特に「TYO」から「めくばせのブルース」に至る流れが圧巻だった。爆発するリズムの中でMISIAのパフォーマンスは飛び抜けて鋭いインスピレーションに溢れ、素晴らしい新境地に達していた。それは本編ラストの「LUV PARADE」でピークを迎え、MISIAの新しいスタンダードの誕生を告げていた。
 一方でリズムに対する挑戦はバラードに対しても行われていた。今回のライヴで新曲が演奏されるのだが、ピアノとヴォーカルの自由なリズムの掛け合いがスリリングで聴き応えがあった。これは『II』にはなかったこと。賛否両論があるかもしれない。が、より深い表現に向かおうとするMISIAの真摯な冒険心が伺える。これらの新曲は今後発表になるだろうが、こうしたライヴでの感触がレコーディングに活かされるに違いない。冒頭に書いた「ダイナミズム」とは、単なる盛り上がりという意味ではなく、こうした感情表現の幅の大きさのことを言いたかったのだ。
 オープニング・アクトを務める千織との競演場面では、後輩を力強くリード。チャンスに気持ちがはやりながらも真直ぐな千織の声を含めた、すべての音を聴きながら、デュオのパワーを客席最後方まで届かせようという意気込みが爽快だった。また、たとえば“愛してる”というリリックが以前は中性的に聴こえていたのが、ぐっとフェミニンに響くようになったことに、MISIAの人間としての充実がのぞいていた。
 それにしても今回のチャレンジの難度は高い。盛り上がり切った直後のバラードでのボイス・コントロールや、リズムのズレを楽しむ余裕など、非常に音楽的、かつハイレベルな狙いは、前代未聞。大会場、しかも野外でここまでやるかと思ったものだ。普通なら充分クリアしている出来映えだったが、それでも彼女自身はまだ満足していないのではと思われた。そんなMISIAのトライした「星空のダイナミズム」に呼応するように、長崎でのアンコールではステージ上空に流れ星がいくつも現れるという奇跡が起こったのだった。

 さてツアー最終盤の山中湖のライヴが間もなく始まる。『III』で掲げたテーマをMISIAが見事にクリアするのか、あなた自身が見届けてほしい。それはそのまま、あなたがMISIAの新しいステップの最初の目撃者となることなのだ。

text:平山雄一


今夜『星空のライヴIII』全国ツアーのファイナルを飾るのは、山中湖のほとりに建つ野外ステージ“シアターひびき”だ。解放感あふれるロケーションに、晴れた日ならばステージ後方に富士山が見えるという最高のビューポイントなのだが、あいにく今夜の天気はくもり。霧に包まれた山中湖は、どこか幻想的な雰囲気を漂わせていた。だがライヴの開催を告げる熱いビートとホーンセクションが鳴り響けば、思わず肌寒さも忘れてしまう。 MISIA が登場すると、緑の芝生を埋め尽くすオーディエンスから歓声が上がった。
「今日は楽しんでいきましょう!」
 まずはゲストとして登場した千織を紹介。
『 BELIEVE 』をデュエットで聴かせてくれた。
MISIA が確立した女性 R&B シンガーのムーブメントは、今もなお続いていることを確信したオープニング・アクトのあと、いよいよ MISIA ワールドの幕開けだ。オープニングナンバーは『つつみ込むように…』。デビュー曲でありながら、彼女のミラクルボイスをたっぷりと堪能できる名曲だ。バルーンのようにふんわりとしたワンピース姿で再登場した彼女に「カワイイ!」と声が上がるが、いざその歌声が放たれれば、圧倒的な歌唱力に誰もが感嘆する。この時ばかりは彼女の輝きが、まるで太陽のようだと感じた。すると、それに応えるかのように、爽やかなレゲエサウンドが心地よい 『太陽がくれたプレゼント』が聴こえてきた。そして未発売でありながらライヴではおなじみの曲『 TYO 』、同じく人気曲『めくばせのブルース』と、アップテンポな曲が続く。しっとりとしたイメージが強かった 3 年前のステージに比べ、今年はダンサーも登場し、アクティブな MISIA を楽しませてくれる。「ナチュラルなフィーリングを大切にしたい」と、バンドメンバーと即興演奏を披露する一幕も。息のあったバンドメンバーとだからこそ成し得る、粋なパフォーマンスだ。新曲も次々と発表される。ライヴに足を運んでくれたファンへの特別なプレゼントなのかもしれない。ピアノの美しき調べに乗せた 『 Stay in my heart』では、愛することを知った喜び、そしてそれが過去になる痛みを表現力豊かに歌い上げた。まさに月明かりのような光に照らされ歌う『月』は、宮沢和史氏によって描かれた、静なる強さを感じさせる神秘的なナンバー。 クライマックス、 MISIA を照らしていた青白い光が真っ赤に変化したのが印象的だった。思わず息をするのも忘れた『忘れない日々』では、その聖なる歌声を讃えるような拍手が起きた。五感が研ぎ澄まされ、眠っていた感性が目覚めるような MISIA の声。それは太陽のように明るく、母なる大地のように温かく、時に風の海のような激しさを見せながらも、やがて月の光のような静かなる愛を奏でる…。アコースティックギターが優しいミディアム・バラード『SONG FOR YOU』では、まるで彼女自身が大自然の一部となり、オーディエンスを包み込んでいるような錯覚を覚えた。
MC では「最近、漢字の成り立ちを考えるのが面白い」というエピソードを聞かせてくれた MISIA 。“音楽”が音を楽しむ、と書くように、“自然”という字には本来あるべき姿という意味がある、など、言葉を紐解くことで新たな気づきがあるという。中でも“星”という字に感銘を受けたそうだ。
「“星”という字は、日が生まれると書くんですよね。星の輝く時間は 1 日の終わりというイメージが強いですが、きっと昔の人は、また新しい 1 日が生まれる目印と感じていたのかも。だから人は、力が欲しい時、星に祈るのかもしれません…」
彼女のなにげない言葉に、大切な宝物をわけてもらったような幸せを感じた。これもライヴだからこそ感じられるサプライズだ。
「私たちの心に、たくさんの星を輝かせましょう!」
爽やかなラブソング『Shining Star』が聴こえてきた。後半戦のスタート。さあ手を振り、もう一度盛り上がろう!過去も未来も超え、一生に一度しかない“今”という瞬間を感じよう…そんなメッセージが込められた『星の銀貨』は、『星空のライヴIII』で発表された新曲。ドラムと歌のアップビートに引っ張られるように体を揺らすオーディエンス。色とりどりの甘いドロップを撒き散らしたようなライトの中、本編ラストを飾ったのは『LUV PARADE』。掛け声に合わせてジャンプすれば、会場全体がハッピーなオーラに包まれていく。喜びと笑顔があふれる華やかなクライマックスだった。
アンコール、聴こえてきたメロディーに歓声が起きる。『Everything』だ。永遠に歌い継がれるであろう美しいラブソング。きっと会場にいた誰もが、愛する人を思い浮かべながら聴き入っていたに違いない。その尊き思いを受け止めたかのように、より感情を込め歌う MISIA 。ライトに照らされ浮かぶ小さな雨の粒も、まるで宇宙に浮かぶ無数の星のように感じる。今夜最後の曲が聴こえてきた。デビューアルバムに収録されている『星の降る丘』だ。今宵のライヴにふさわしい歓喜の歌声に、バンドメンバーも最高の音を奏でる。ここにいる誰もが、心から“音を楽しんでいる”のが分かった。 その中で、ひときわまばゆい光を放つのは、やはり MISIA だ。誰よりも熱き思いこの胸に、ずっと歌い続ける…。声の限りに響かせた、 MISIA のテーマとも言うべき強いメッセージ。大きく温かい拍手の中、天に祈るよう両手を広げ、空を仰ぐ彼女の姿は、神々しく輝いていた。
そして、ステージの成功を祝うかのように、大きな花火が上がった。たくさんの祝福に包まれた MISIA は、少女のような無邪気な笑顔で手を振り続け、ステージをあとにした。晴れた日の暖かさ、頬を濡らす冷たい雨、そして雨上がりの空に浮かぶ幾千もの星の光……なにげない自然の恵みを感じるたびに、我々はきっと今夜のライヴを思い出すに違いない。音楽と自然が持つ、計り知れないパワーに包まれながら、心に新たな幸せの芽が宿ったことを感じた最高のステージだった。

text :瀬尾水穂(月刊 SONGS10 月号より転載)


星空の下、バンドとの音の交歓を MISIA 自身が楽しみ、より自由な音楽表現を追求する場としておなじみの「星空のライヴ」。その3回目にあたる「星空のライヴ~ Music is a joy forever ~」の最終公演が 8 月 27 日に山中湖シアター“ひびき”で行なわれた。
当日は開演前にポツリポツリと雨が降りだす生憎の天気で、名実ともに“星空の”とはいかなかったが、それでも湖畔にある野外劇場の雰囲気は開放的で、いい感じだ。通常のツアーとは違うリラックスした空気のなか、 MISIA のバンドが繰り出す緩やかなファンキー・グルーヴに乗ってオープニング・アクトの千織が登場。さらに MISIA まで登場し、会場の熱が一気に高まる。そして、 MISIA & 千織による「BELIEVE」でライヴはスタートした。交互にリードをとり、サビではソウルフルなハーモニーを紡ぐ MISIA と千織。まさに「星空のライヴ」ならではのスペシャルなオープニングだ。続いて千織が3曲歌ったあと間を置かず、いよいよ MISIA のステージだ。
柔らかなグルーヴとしなやかなメロディーが心を解放する「つつみ込むように…」、レゲエ調の軽やかなポップ・チューン「太陽がくれたプレゼント」、ラテン調のリズムがホットな新曲「TYO」と続く前半。この明るく軽快なノリで、少し寒さを感じていた観客の体もばっちり暖まったはず。「せっかく“星空のライヴ”なんだから、即興をやってみましょうか」と MISIA が語り、アドリブを口ずさむと、それにピアノが反応し、両者の音の会話が始まった。次第にバンドが加わっていき、ゴスペル風のミディアム・チューンが即興で演奏される。 MISIA もバンドのメンバーもとても楽しそう。強い絆で結ばれた彼らの一体感と音楽を楽しむミュージシャンシップを感じた一幕に、こちらまで笑顔になる。
そして、すっかり陽も落ち、会場が夜空に包まれた頃、初めて聴く新曲が披露された。
変化に富んだメロディーと曲構成をもつドラマチックなバラード「Stay in my heart」と、マイナー・キーの翳りあるメロディーが印象的なロック調バラード「月」だ。とくに、宮沢和史による深遠な詞世界が霧雨の夜空に吸い込まれ、幻想的な世界を現出させた「月」は、今回のハイライトのひとつだったと思う。そして、終盤はファンキーでノリのいい新曲「星の銀貨」、開放的なファンキー・ポップ「LUV PARADE」で本編終了。「Everything」「星の降る丘」で MISIA バラードを堪能したアンコールのあと、千織も交えて再び「TYO」がセッション風に披露され、 2 時間強のライヴは終了。最後は観客が頭上でタオルをぐるぐる回す“ヘリコプター”まで登場する盛り上がりだったことを報告しておきたい。
生演奏を主体にしたオーガニックな解放感を心から楽しみ、 MISIA の意欲的な新生面も垣間見ることができた「星空のライヴ III 」。それは、 MISIA とファンの夏を締めくくる、素敵な時間だったのではないだろうか。

text : 染野芳輝

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